vol.1 表紙のはなし

第1回目は、フォトボイス集の顔となっている表紙についてご紹介します。

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左側が裏表紙で、右側が表紙です

 

 

ふ わりとした風合いのカーテンがかかり鮮やかな花が咲き乱れる窓辺から、幾枚もの写真が重なり合いながら空へと昇って行く様が描かれています。背景に配置さ れた、柔らかく色づけられた海と山と街は、三陸のリアス式海岸沿いの風景を思わせます。よく見ると、空へと向かう写真には、フォトボイス・メンバーによっ て撮影された光景が描かれています。

水彩の筆遣いと力強い黒い枠線が印象的なこの表紙を制作してくださったのは、宮城県仙台市のフォトボイス・メンバーの一人である、M.SATOさんです。

今回改めて、M. SATOさんに、表紙制作の意図について伺いました。


窓辺:フォトボイス集本誌で、表紙だけを見ると少し分かりづらいのですが、裏表紙も合わせて一枚の絵として見ると、カーテンがかかり花が飾られた窓辺からの風景が描かれているのがわかります。当初の案では、この窓辺にはたたずむ女性像が描かれていました。窓から外を眺める人のイメージが限定されないように、窓辺からの風景のみの絵となりました。つまり、この窓辺からの風景はそれを眺めている人の存在が前提されているのです。

 

●どんな思い?では、窓から外を眺めている人はどんな思いで外を見ているのでしょう。

人って、「なんとかしなきゃ」、「これからどうなるのかな」という気持ちが胸にある時に、なんとなく窓から外を眺める。

M.SATO さんは、震災以前からの仕事や社会活動の関係で、震災以降も多くの被災地に足を運んでいらっしゃいます。震災以降のボランティアや仕事で出会った人たち、 話さなくてもその何気ないしぐさやまなざしから、その人達の状況や思いに気づかされることがあったといいます。そんな場面に遭遇した時間が蓄積されて、こ の絵の構図はできあがったのです。

景色の向こうに待っているのは、どんな未来なのか。

●写真:そして、カーブを描いてうねりながら空へ、未来へと向かって行く数々の写真。
フォトボイス・プロジェクトに参加することでM. SATOさんが目にしてきた写真には、フォトボイス・メンバーである撮影者それぞれの記憶や経験や感情がつまっています。

このような写真の描写は、これらの「写真」を背負いながら前へと向かっていかなきゃいけないという決意の表現となっています。

●青い海と緑の山:M. SATOさんは、自然の多い場所へ行ったときには、必ず周囲を散歩してスケッチをすることが習慣になっているそうです。この絵で描かれた風景は、東松島のご友人がやっていらっしゃる民宿の周囲の風景や仕事で行った牡鹿半島(女川)の海岸線が念頭にあったようです。


実 は、本誌完成後すぐにM. SATOさんにお目にかかった時に、「窓辺というのが分かりづらいですね」という少し残念そうな言葉をもらっていました。表紙から裏表紙にかけてのレイア ウトのバランス上、そうなってしまったと説明したのですが、気になっていた言葉でした。今回の表紙紹介で、「窓辺」であることの意味をみなさんにお伝えすることができました。

M. SATOさんは、これまでも仙台市で開催されたフォトボイス展(2014年1月2014年11月)でも、手書きのバナーやポスターを制作してくださっています。

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2014年1月に仙台で開催されたフォトボイス展の様子

 

 

今回のフォトボイス集の表紙に関しては、広く頒布する予定であることとずっと残るものになるということから、当初制作を躊躇されていたようです。

こ の表紙制作が可能になったのには、プロジェクトから依頼するタイミングも関係がありました。地域の活動や仕事で忙しい毎日を送る彼女に何度もお願いをする というのは、プロジェクトとしても心苦しい部分があったのですが、できればフォトボイス・メンバーの才能を活かした冊子にしたいという考えから、そろそろ ぎりぎりの日程だなという日に最後のお願いと思って電話をかけてみました。そうしたら、思いのほか明るい声が受話器の向こうから帰ってきました。実はその 日は、偶然にもM.SATOさんの予定がなくなって、ぽっかりと空いた日になっていたためでした。あれよあれよという間に、その貴重なフリーの日を使っ て、すでに彼女自身が提案してくれていた今回の表紙のラフに沿って、完成版を制作してくれることになりました。3日後には、プロジェクトの冊子制作担当者 の元に原画が届き、最後まで懸案でありかつフォトボイス集の顔である表紙が完成をみたのです。あの日の電話でなかったら、この表紙ではなかったのだろう か?と、今でもときどき、タイミングというものが物事に与える影響などといったことを考えながら不思議な感覚にとらわれつつ思い返すできごとです。

この表紙の原画は、現在M. SATOさんの手元にあります。3月の仙台での世界防災会議終了後、彼女からこんな内容のメールが届きました。

「なんだか畏れ多い取扱いをしていただいて穴に入りたい気分なのですが、出来れば一生に一度の恩恵にあずかったものですから手元に置きたいなあ、、、と思うのです。」

フォトボイス・プロジェクトの意義をもう1つ見出せた言葉でした。

次回は、フォトボイス集のコンテンツについてご紹介します。ご期待ください。

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